箆柄暦『一月の沖縄』2013
2012年12月31日発行/117号

《Piratsuka Special》
普天間かおり
『Smile Again』

《Piratsuka Topics》
下地暁『Myahk』
モンゴル800『800BEST -simple is the BEST!!-』
紫murasaki 東名阪ツアー
『日中を旅した楽器 -三弦・三線・三味線-』
具志堅ファミリー『アコウテ』
大阪大正区「おきナニワん」
プロ野球沖縄キャンプ2013

 

 
Piratsuka Special
歌には人と人とをつなげる力がある。

　東京を拠点に、全国でライブ活動を展開している沖縄出身のシンガーソングライター、普天間かおり。優しさと力強さを併せ持つ澄んだ歌声で、聞き手の心に寄り添う温かなメッセージソングや沖縄をテーマにした楽曲を歌い、幅広い層の支持を得てきた彼女が、昨年十月、オリジナルとしては約五年ぶりのアルバム『Smile Again』をリリースした。今作はメジャーデビュー十周年記念盤でもあり、「自分のルーツである沖縄に思いを寄せた楽曲を、沖縄でお世話になっている人たちと一緒に録音したい」という、彼女の希望が叶った作品となっている。

　「沖縄での録音は今回が初めてだったんですが、大好きな古謝美佐子さんやディアマンテスの皆さん、昔なじみのスタッフにも囲まれて、いい意味で緊張感なく、楽しく録音できました。東京だと、録音のときは“よしやるぞ”ってテンションを上げていくんですが、沖縄で歌ってみて“楽しい歌はやっぱり楽しんで歌うのがいいな”って改めて気づけましたし、心に残る録音だったと思います」

　そのいっぽうで、本作ではもう一本、大きな柱の存在を意識した。それは「東日本大震災後、初の作品」という点だ。実は普天間は、長年福島でラジオパーソナリティを務めており、震災当日も生放送の真っ最中だった。自らも大地震に見舞われた彼女は、震災の一か月後から福島で週一回の放送を再開するにあたり、「自分にできることは何か」と考え、「避難所を廻って歌を届けよう」と決意する。そこで歌ったのが、表題曲の「Smile Again」だった。この曲は、被災者となった人々に「負けないで、がんばって」と伝えたくて作ったものだが、当初はこの歌を被災地で歌ってよいものか、とても悩んだという。

　「そもそも避難所で生活している方々にとって、いま必要なのは歌ではないのでは?とも思いましたし。でもどうしても“一緒にがんばろう”と伝えたくて、意を決して歌ったら、皆さん号泣して“ありがとう”って言ってくださった。それを見て私は“ああ、この方たちは今まで泣く暇もなかったんだ”って気づいたんです。人はやりきれない怒りや悲しみを表に出せないままでは、心がパンクしてしまいますよね。歌はそういう感情を解放して、気持ちを楽にするお手伝いができるんだ、とわかったとき、私は“これからも歌を歌っていこう”と決めました。歌には人の心を支え、人と人とをつなげる力がある。それを信じられたからこそ、私はこの曲をアルバムタイトルに選んだし、以降の曲作りでも自分の思いを気負わず、素直に表現できるようになったと思います」

　そんな経緯を経て完成したアルバムには、表題曲や沖縄で録音された二曲を含め、これから先の未来への願いを込めた全八曲が収録されている。どの曲からも上滑りではない、地に足の付いた彼女のまっすぐな思いが伝わってきて、気持ちが前向きになれる一枚だ。今月十二日には福島、十九日には那覇でレコ発ライブも開催される。「復興は被災地だけでなく、私たち自身の心の問題でもある。みんなで力を合わせて、よりよい方向に進んでいけたら」と力強く語る彼女の歌声に、CDで、そしてライブで、ぜひ耳を傾けてほしいと思う。
（取材&文・高橋久未子／撮影・喜瀬守昭）

 
◆普天間かおり（ふてんま・かおり）　1973年、中城村で琉球王朝の流れを汲む家系に生まれる。幼い頃から歌い始め、高校2年生で音楽の道に進むべく上京。インディーズでの活動を経て、2002年にシングル「髪なんか切ったりしない」でメジャーデビュー。現在はライブのほか、ラジオでもパーソナリティとして活躍中。

◆普天間かおり『Smile Again』
タクミノート
初回盤TECG-20071　3,000円（限定）
通常盤TECG-20072　2,000円
10/24発売
Smile Again/歩いていこう/レキオス/普天間のかおり〜琉球うみない哀歓歌〜（feat.古謝美佐子）/CHAMP☆LOO 2012（feat. DIAMANTES）/みんな大好き!/千年桜/守りたいもの〜Acoustic Version〜　
※初回限定盤のみMusic Video8曲入りDVD付