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箆柄暦『六月の沖縄』2010 マルチーズロック

2010.06.14
  • インタビュー
箆柄暦『六月の沖縄』2010 マルチーズロック

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箆柄暦『六月の沖縄』2010
2010年5月31日発行/086号

 

《Piratsuka Special》
マルチーズロック
『ダウンタウンダンス』

Piratsuka Special
マルチーズロック
栄町市場で花開いたジプシーロック楽団。

 那覇市安里、ゆいレール安里駅前に広がる昔ながらのアーケード商店街「栄町市場」。迷路のように入り組んだ路地を挟み、商店や飲食店などが立ち並ぶ市場の一角に、「マルチーズロック」のバンマスもりとが営む居酒屋「生活の柄」がある。

 開業は七年前。店名は、沖縄を代表する詩人・山之口貘の詩からとったもの。ここでもりとは料理を作り、お客さんと会話を交わし、酒を飲み、ときに歌う。そのアクの強い、一度聞いたら忘れられないド迫力の嗄れ声を絞り出しながら。また開店前は、二階の窓から市場を眺めつつ考え事をし、野良猫をからかい、詞を書き、曲を作る。その楽曲はノスタルジィと哀愁を漂わせ、ロックでパンクで歌謡曲のようでもある。もりとは、店で過ごすそういった時間のすべてが、マルチーズロックの音楽活動につながっている、と言う。

 「何も、音楽を演ってる時間だけが音楽に結びつくわけじゃないでしょ。音楽だけで食っていくことは俺にはできないな、面白くないから。今みたいにお店やりながら、音楽もやるのが理想。だってお店にいれば、毎日カウンターの内側からいろんなドラマを見られて面白いし、曲作りの刺激にもなる。俺にとって、この店は音楽と同じくらい大切なもので、大事な遊び場なんだ」

 もりとがそう感じるようになったのは、店を栄町市場という場所に構えたことも大きかったようだ。もともと栄町市場は、二一世紀に入って時代に取り残され、いったんは寂れかけた街だった。だが、この街のレトロな雰囲気にひかれ集まってきたもりとのような店主をはじめ、市場内にミュージシャンや音楽好きが多かったことから、二〇〇六年に有志が「音楽で街おこしをしよう」とオリジナルアルバム『めいどいん栄町市場』を制作。県内外で大いに注目を集めた。このとき、マルチーズロックも栄町市場に捧げる曲「ダウンタウンダンス」を書き下ろしたが、この経験が彼らの音楽に大きな影響を与えた。

 「それまで俺は、自分の世界観の中でしか曲を作ってこなかったけど、市場のためにこの曲を書いたことがきっかけで、かえって自分の理想の音楽に一気に近づけた感じがした。この街のカオスな雰囲気と、俺自身の気持ちがマッチして曲が生まれる、そんなのがすごく気持ちいい」。その理想とは「民謡で言えばカチャーシー踊らすような、でも明るいだけじゃなく切なさもある、ジプシーの音楽のような」。

 市場での暮らしを通じて、もりとの思い描くサウンドを具現化できるバンドメンバーが集まったことも、良きに働いた。この三月に発売した八年ぶりの新譜『ダウンタウンダンス』では、充実期に入った彼らの、どこか懐かしいけれど他のどこにもない、唯一無二の音世界が炸裂している。この魅力、ぜひライブでも味わってほしいところだ。

 「俺たちはライブのことを宴だと思ってる(笑)。やっぱり、間近にお客さんの顔が見えるライブがいいね。いつか大広間で本当のお座敷ライブをやりたいな(笑)」

(取材・編集部/構成・高橋久未子、撮影/喜瀬守昭、デザイン/西英一、ロケ地/栄町市場・生活の柄)

 

マルチーズロック 1997年、もりとを中心として結成。2002年に1stアルバム『道しるべ』をリリース。現メンバーはもりと(vo&gt)、あかね(sax)、リンダ(tp)、上地gacha一也(bs)、ホールズ(gt)、おっちゃん(dr)、池宮賢(tp)。

◆マルチーズロック
『ダウンタウンダンス』

オフノート TEL: 03-5660-6498
AUR-19 2,100円 2010/3/21発売
ビヨヨーン/夢遊病者のたどる道/命をけずってお前との口づけ/ベルリンのかけらをアメ玉にしてほおばる/Eマイナー/ロミオとジュリエット/バタフライ/ダウンタウンダンス/ひみつの土園