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箆柄暦『一月の沖縄』2011 下地勇

2011.01.13
  • インタビュー
箆柄暦『一月の沖縄』2011 下地勇

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箆柄暦『一月の沖縄』2011
2011年1月31日発行/093号

《Piratsuka Special》
下地勇
『NO REFUGE』

 

Piratsuka Special
下地勇
他の誰にも作れない、自分だけの音楽を。

 生まれ島・宮古島の方言ミャークフツで綴った歌詞を、ロックやジャズ、ラテン、レゲエなど多様なジャンルの音楽に乗せて歌う個性派シンガーソングライター、下地勇。まるで外国語のようにも聞こえる難解なミャークフツを、ボーダレスなサウンドと自在に組み合わせていくユニークな音楽性、そしてヴォーカル&ギターの力強いパフォーマンスで注目を集め、最近では県内外はもちろん、韓国や台湾でもライブやCD発売を実現するなど、着実に活躍の場を広げている。

 そんな彼が、今月八枚目のアルバム『NO REFUGE』をリリースする。タイトルの意味は逃げ場がない。シリアスな響きにドキッとして歌詞(の標準語訳)に目をやれば、そこに並ぶのは現代社会に潜む矛盾や葛藤を真正面から見据え、人間の生々しい喜怒哀楽を深く掘り下げようとする骨太な言葉の数々だ。実は「方言を使うからといって島の花鳥風月ばかりを歌うわけじゃない」というのが、この人のもう一つの持ち味であり、真骨頂でもある。その理由を問うと、彼は少し考えた後、「僕は音楽ですべてを表現したいから、ですね」と答えた。

 「人が社会の中で誰かと一緒に生きていこうとしたら、楽しいこともあるけどそればかりじゃなくて、苦しんだり落ち込んだりするときもあるし、ニュースを見ればなんでこんな悲しい事件や争いが起きるのかなって自然と考えますよね。僕はそういった目の前の現実一つひとつに目を向けて、そのすべてを歌で表現したいんです。確かに前向きな歌やラブソングのほうが売れるかもしれないけど(笑)、それだけじゃすべてではないし、そういう歌は他の人でも書ける。僕は僕にしか書けない歌を書いて、僕にしか作れないリズムを見つけて、自分だけの音楽の世界を確立していきたいんです」

 その言葉通り、今作では音楽面でもよりいっそうのオリジナリティを追求すべく、気心の知れたバンドメンバーと合宿体制でレコーディングを敢行。半数近くの曲では弦楽四重奏の演奏も取り入れ、ミャークフツのリズムとも絶妙にマッチする、スリリングで無国籍感漂うサウンドを作り上げた。完成作に耳を傾ければ、歌詞が方言かどうかを云々する以前に、歌詞も含めた楽曲全体が一体となって迫ってきて、その勢いと世界観に圧倒される。そのインパクトの強烈さは、「今や夢も方言で見るくらい(笑)ミャークフツが身体の中に入り込んでいる」という彼ならではのもの。これぞ他の誰にも真似できない、下地勇の歌なのだ。

 思えば三年前、アルバム『3%』の取材で彼は、「いずれは歌詞が方言とか、宮古出身とかは関係なく、一人の人間として歌を聴いてもらえるようになりたい」と語っていた。今作は自身が掲げたその目標に到達し、さらに次のステップへと進むための一作といえるだろう。今年最初の必聴盤としたい。
(取材・文/高橋久未子、撮影/喜瀬守昭、デザイン/西英一、ロケ地/浦添groove)

 

下地勇(しもじ・いさむ) 1969年、宮古島久松生まれ。2002年「我達(ばんた)が生まり島」でCDデビュー。ソロのほかBEGINの島袋優とのユニット「シモブクレコード」、石垣島出身の民謡シンガー・新良幸人とのユニット「SAKISHIMA meeting」でも活動中。

◆下地勇『NO REFUGE』
インペリアルレコード TECI-1294
2,500円 2011/1/19発売
Kari/差/Reset/雨ざらしの椅子/AKATZ/嬉しくなりたい/ハイエナの哀しみ/アトゥダマ ドゥ ウプダマ/ラストワルツ(ストリングスVer)/浜辺の老人